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KeN's GNU/Linux Diary
... 料理とDebianと雑多な記録


2016年06月16日

_ [computer] 同人誌を作ってみた『Re:VIEW+InDesign制作技法』 制作話(2)

引き続き

コンセプト

ターゲットは次のように設計(おおむね上にあるほうが主)。章単位で読み切れるようにして、個人でも業務でも使えるようにしてみた。

  • エンジニアが、Adobe Creative Cloudなどを契約してInDesignでそれっぽい紙面を作れるようになる。
  • DTPオペレータが自動DTPでのオペレーションと注意事項を理解できるようになる。
  • 紙面デザイナーが自動DTPに向いた紙面デザインについて考慮できるようになる。
  • 編集や営業が、Re:VIEWと自動DTPとはどういうものかを理解できるようになる。
  • プログラマが、Re:VIEWや、自動DTP・フィルタプログラムの開発手法を把握できるようになる。
  • 制作会社が、Re:VIEW原稿に対して恐れずに関われるようになる。

最後のは、一応これでご飯を食べている身としてはコンペを作ることになるわけで、受注が減るリスクはある。ただ、この点については会社とも話し合い済みで、Re:VIEWがそこそこ認知を得た今では、「Re:VIEWだと1社に束縛されちゃうのがちょっと……」という版元さんの懸念とか、「Re:VIEWでせっかく書いたのに編集DTPの従来工程でガッカリに」という著者さんの悲痛な声などが耳に入るようになってきており、技術公開をすることで裾野を広げていく方向にしたほうがよいという決定をしていた。

紙面デザインを本職のデザイナーに頼んだのは、自分にはそのセンスがないというのもあるのだけれども、

  • Re:VIEWでいかにプロっぽい紙面を作るかというDTP技術を説明する本なのに、その本の紙面がボロボロでは説得力がない。
  • デザイナーから上がってきた組見本から、実際の開発手順を踏んで変換していくさまをLiveハックのように見せていきたい。
  • そうやって調整し、作り上げた紙面レイアウトをそのまま使用してレイアウトにかかる説明の不備もなくしたい(いわゆる「ドッグフードを食べる」)。
  • レイアウトファイルをMITライセンスで公開配布するので、素人くさいものではなく、プロの品質で出したい。

という意図が込められている。

印刷所選定

電子版を作ることは業務でもやっていることで新味はないし、表紙や印刷所交渉を含めてチャレンジしてみたかった。

あまりにコストがかかるようであれば諦めるところだったけれども、いくつか同人誌系印刷会社のオンデマンド印刷での簡易見積りを見て、そう無茶な額ではなさそうと判断。運営さまから委託販売の確約をいただいたので、正式に製本版で出すことを決意した。

複数の印刷所をネットでみつくろってみる。条件は以下のとおり。

  • 192Pの製本ができること(100P以下の本を安くできるところは多いけど……)。
  • 無茶な額でないこと。
  • 薄い紙面紙があること(90kは厚すぎ。1冊の厚さと重さがえらいことになる)。
  • 担当の反応がよいこと。

やりとりを経て、PrintBookWayというサービスを運営している小野高速印刷株式会社さんにお願いすることに決定。金額はもう少し安いところがあったものの、反応が早く、手頃な上質70kの用意があり、基本仕様がわりとリッチだったのがポイント。

最終見積り時に、表紙・裏表紙と本文サンプルのPDFを送って印刷に問題のありそうな箇所がないか確認してもらったところ、その出力見本をすぐに郵送をしてくれた。サンプルのPDFはトンボ付きX-4 CMYK(本文はK1色)でメール入稿。

……自分、正直、オンデマンド舐めてた。品質にちょっと感動した。

表紙はグロス(光沢あり)PP加工で依頼予定だったが、念のためということでマット(光沢なし)PP加工のバージョンも同封してくれていたので比較。


マットは商業書籍っぽい余裕と落ち着きがあるが、派手さではやはりグロスが勝る。そもそも同人誌でPP加工はやりすぎではという説はあるが、職業病でな……。

本文紙面の紙厚は目論見どおりで、厚すぎず、透けすぎもせず、細かな部分の表現も綺麗にできていた。粗探しをすれば、少し黒が濃く出るかな、アミ部分はわずかに揺らぎがあるかな、というくらい。トンボ付きで入稿したことで、フチまで綺麗に印刷されている。

品質に満足し、最終の入稿仕様は次のとおりとなった。

  • PDF入稿: 本文・表紙ともにX-4、トンボあり、フォント埋め込み済み。Dropbox経由でアーカイブ渡し
  • B5正寸
  • 本文モノクロ 176ページ、上質紙70k、無線綴じ(左綴じ)
  • 表紙CMYKカラー アートポスト180k、グロスPP加工、背8.8mm
  • 見返し 印刷なし、色上厚口銀ねず

すでに同人誌レベルじゃない気がしている。

価格設計

趣味の範ちゅうで利益を求めているわけではないけれども、印刷・製本という業者を利用する時点で費用はそれなりにかかることになり、その費用回収くらいはさすがにある程度させてほしい。

オンデマンド印刷の場合、ページ数や部数を増やすとそのまま積算されていくので、オフセット印刷のようなスケールメリットは薄い。無論、オフセット印刷のほうは最低部数も費用も大掛かりすぎるので、考慮の余地はない。

本文は176Pでまとまる目途が立ったので、ほかに価格に響くのは部数である。スケールメリットがないと書いたが、実際にはオンデマンドでも部数が多ければ割引が効いて少しはスケールメリットになる。ただし……

  • 委託なので、上限部数が決まっている
  • 在庫の保管、販売、発送の責任を自分は負えない

ということを踏まえて、部数は上限部数よりもやや少なくし(売れ残るリスクと、普通の同人誌よりも書籍サイズがスペースを食うための遠慮)、自身の確保ぶんも最低の献本数のみに留める。

少部数のため、印刷原価は1冊あたり1,300円弱。消費税が痛い。

このほかの費用としては、

  • 協力してくれたデザイナー、査読、写真提供の友人たちおよびパートナーへの謝礼品
  • コンビニのプリンタ使用料
  • 技術書典 委託費
  • 技術書典会場への配送費

などがある。

当初は委託については500円か1,000円という枠組みしかなく、これだと1冊ごとに赤字幅が膨らんで死んでしまうので、運営さまに泣きついて500円単位の任意価格設定に変更いただいた。

諸経費の回収も考えると、本来の値付けは2,000円〜2,500円の範囲だろうか。

  • TechBoosterさんの『技術書をかこう!〜はじめてのRe:VIEW〜』が1,000円。
  • 本書と同じくらいの厚みの『Software Design』が1,220円(スケールメリットが違うけど……)。
  • 大赤字やダンピングは避けたいけど、こんなニッチなものに高く付けすぎて売れ残って在庫になるのも嫌だ……(あと、利益が変に出ても、対出版社でないのでいろいろ面倒なことになる)

とモヤモヤと考えた末、定価2,000円、ただし技術書典特別価格として「1,500円」に決定した。世の中の版元編集者はこういう思いをしながら価格設計しているんだなぁ、という感慨。

(謝礼品を除いた)諸経費と献本ぶん減益を入れると仮に全部掃けたとしても赤字だけれども、自分としてはとても良い経験だったので許容範囲(投げ銭、Amazonギフト券は歓迎(笑))。

とはいえ、今後増刷してほかの箇所への委託を仮に計画するとしても、特別価格ではもう無理なので、その点は少し禍根になるかもしれない。

続く